モノづくりが得意な国/情報の受信と発信

3月も中旬になり、新年度ももうすぐですね。
特に人事担当の方は、新しい年度を迎えるにあたり、お忙しい時期かと思います。働き手不足や雇用ニーズの高まりの中、採用ご担当の皆さまは人材確保のために日頃より大変なご苦労をされていることと推察します。

そんな採用難の遠因(?)にもなっていそうな、熊本県の半導体の工場建設のお話はご存知でしょうか。世界シェアトップを誇る台湾の半導体メーカーTSMC(JASM)の工場建設の件です。(NHK NEWS WEB「熊本に来た“黒船” TSMC始動の衝撃」)

モノづくりが得意な国

ニュースの写真を見ただけでも、とても大規模な工場が建設されているのがわかります。まだまだ他の工場棟の建設も計画されているようで、相当な規模の半導体製造エリアになっていきそうです。待遇面も魅力的だと噂されており、雇用される人材の数も膨大なものとなるでしょう。国内産業への影響等について、今盛んに議論されています。

併せて注目したいのが、地元の国立大学熊本大学が2024年度に半導体人材を育成する学部相当の「情報融合学環」を新設すると発表したことについてです。つまり熊本では、産学一体になっての受け入れ態勢が整い始めているのです。実は私たちが暮らす長野県でも、そういった意識が根付いている地域があります。

それは、諏訪地域です。

諏訪地域は精密産業が全国の中でも盛んで、地元の工業高校(岡谷工業高校)の位置づけは県内の他のエリアの工業高校と比較すると優先度の高いポジションにあると言われています。実際に諏訪へ伺うと、「地元の工業高校生は地域全体で育てるぞ」というような気風を感じますし、やはり産学連携による研究開発や人材育成はその地域の技術力や活気に繋がっているのだと思います。(しかし岡谷工業高校も統合の話が出ており、先はやや不透明なところもありますが…)

これまで高等教育、とりわけ大学は産業界・経済界と一線を引いたスタイルをとってきたと思っています。なぜ一線を引いてきたのかについては今回は論評を避けますが、このあたりは「日本の失われた30年」の一因になっているとも、筆者は考えています。
日本は元来モノづくりが得意な国の筈ですが、近年は学問・研究・開発において充分な投資がなされていないように思えます。故に先端分野では他国に遅れを取ることもしばしばで、専門家の間では「日本は工業立国(技術立国)と言える状況ではなくなりつつある」といったようなマイナスな意見も見受けられます。

そんな中で、かつての技術大国としての競争力や勢いを取り戻すためにも、熊本や諏訪のような「産学連携の動き」を他の地域でも推進することが必要なのではないかと考えます。熊本の工場開所にあたりTSMC創設者のMorris Chang氏は「日本の半導体再興の始まり」と述べていますが、日本はこの巨大な海外資本にただ労働力として消費されるのではなく、地域や日本全体の技術力のレベルアップを図る起爆剤として活かすべきだと思います。そのためには、まず教育や学問への投資を惜しまないことが重要なのではないでしょうか。同時に、これは経済の安全保障上必要な施策ともいえます。

情報の受信と発信

さて、テクノロジーの発展に絡めて、今回はもう一つ考えていきたいことがあります。

それは「情報の受信と発信」についてです。

最近は、インターネットやSNSの発達により、誰もが簡単に情報を発信出来る世の中になりました。そして発信力のある人(インフルエンサー、著名人など)の主張がとにかくもてはやされる風潮があります。ですが筆者は、いつの時代も“情報の発信”よりも“情報の受信”がまずは大事であると、この頃改めて考えるようになりました。

もう少し正確に述べると、「受信した情報を精査・考察し、それに呼応するような建設的発信をする」ことが大事だと思うのです。あくまでも「質の良い情報の取捨選択と論理的な考察」がベースになっていて、発信はその次の話なのです。

発信力のある人がもてはやされる風潮の中で、そうした人を観察していると、何となく「脇が甘い」ような印象を受けてしまいます。ソースが曖昧だったり、論理が破綻したり客観性に欠ける主張も多く見かけます。

フォロワーやファンの数が、その主張の正当性を証明してくれるのでしょうか。「バズった投稿」は果たして世論となり得るのでしょうか。

確かに今の時代、何も発信しない人というのも考えものですが、“ただ自分が言いたいことを言い放ってスッキリ”というスタンスには、あまり共感することはできません。皆さんはいかがでしょうか?

理想的な発信の仕方は、繰り返しになりますが「受信した情報を精査・考察し、それに呼応するような建設的発信」をすること。賛同であれ異議であれ、論理と客観性は不可欠なのです。主観をぶつけ合うだけでは何も生まれません。議論・討論・対話という行為の基本ですよね。

特に最近は、噛み合わない論争が多くなっているような気がしています。それは情報の咀嚼よりも、“発信するという行為そのもの”の優先度が高くなってしまっているからではないでしょうか。ですから著名人に限らず、一足飛びで持論発信をした結果、炎上したり徹底的に叩く/叩かれるという幼稚な事案が後を絶たないのです。これは情報化社会の弊害と言えるでしょう。

ですから、今後の長野県の経済・産業界には、是非前述のような論理的かつ建設的なマインドを持っていただきたいと願います。(過去関連記事)

熊本県の半導体工場建設のような、経済・産業の動きとそれに伴う教育の動きを見て、長野県でも新たな取り組みが可能かと思います。そのためには企業と教育機関、または行政が適切な情報の選択(ニーズの把握)をし、論理的な考察、そしてそれに呼応する発信(行動)をすることが重要だと考えます。リアルに耳を傾けることが大事なのです。もちろん産学連携事業に限らず、地元に人材を根付かせるということにも当てはめることができますね。それにより、日本人特有の強みをさらに引き出すことが出来るのではないでしょうか。

なぜなら日本はモノづくりが得意な国なのですから。