郵便貯金の歴史と資産運用について~賃上げと資産運用を考える~

前回「日本の年金制度」についての考察をしてみましたが、皆さんいかがでしたか。将来のことを、早いうちから真剣に考えなくてはならない時代になりました。今回は、貯金のなかでも日本人に深く浸透している「郵便貯金」と、昨今盛んにいわれている「資産運用」について考えてみたいと思います。

日本の歴史と郵便貯金

この週末に面白い本を読んだので、まずはその内容をもとに考察をしていきたいと思います。
本のタイトルは「日本を殺すのは、誰よ!」(発行元:東邦出版)というもの。
やや物騒なタイトルですが、かなり本音で書かれているなと感じられる本で、一気に読むことができました。作者は、新井紀子さんとぐっちーさんという方です。

新井さんは一橋大学法学部およびイリノイ大学を卒業され、国立情報学研究所社会共有知研究センター長・教授をされている方です。以前私も読んだことがありますが「ロボットは東大に入れるか」の作者でもあります。

新井紀子さん詳細(Wikipedia)

もう一方のぐっちーさんは、投資銀行家。1960年東京都港区生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。丸紅を経てモルガン・スタンレー、ABNアムロ、ベア・スターンズなど欧米の金融機関を経て、ブティック型 ……2019年に亡くなられてしまったとのことですが、とにかく凄そうな方です。

ぐっちーさん詳細(東洋経済オンライン)

2018年12月と、コロナ騒動前が初版ですが、コロナ禍が落ち着いてきた今日でも、「なるほど」と思わせてくれる内容だと思いました。この中で、「昔、特に戦前までの日本人はあまり貯金をしない国民性だった」という一文がありました。「え?そうだったのかな」と思いながら読み進めていくと、以下のようなことが書かれていました。

戦後、郵便貯金制度ができたときに、小中学校で『自分の口座を作ってお金を貯めましょう』という活動が、国の支援で行われていた。なぜ、政府が郵便貯金制度に注力したかというと、戦争に負けた当時の日本は、外国に国債を買ってもらおうと思っても、信用が全くないために、どこも買ってくれなかった。つまり資金は国内で調達する方法しかなかった。

「日本を殺すのは、誰よ!」 (発行元:東邦出版)

当時の日本は戦災復興のためのお金がどうしても必要だったので、その資金を調達するために郵便貯金が始まったのです。当時の国民は、将来復興した日本に対し、郵便貯金を通して「投資」をしていたと言えるでしょう。

昔、いわゆる江戸っ子と呼ばれる人々の間では「宵越しの銭は持たないのが“粋”」などとよく言われていましたが、郵便貯金の歴史はそんな日本人の国民性を変化させ、小中学校などでも、「自分の口座を作ってお金を貯めましょう」という活動が国の支援のもとで行われていたのです。

終戦直後、激動期の日本の歴史、先人たちが苦労・工夫を重ねながら築き上げた制度や、新しい日本を作ろうとした歴史について、私達はもっと知らなくてはなりません。そしてこれらは、現在金融庁が推し進めている「学校での金融教育」に通じることだと言えます。そのような背景があり、戦後70年以上をかけて、「預貯金が大事!」という考え方が私たち日本人に浸透したのだそうです。

そして時が経ち小泉内閣による郵政民営化を経て、令和の現在は、政府が国民に対し「資産運用の重要性」を説き始めていますね。預貯金として眠っているお金を投資に回す必要性が出てきたということではないでしょうか。

※年配の方々の中には「若いうちから金融教育などけしからん!」と怒る方もいる、という話をよく耳にしますが、そういう方々はご自身の子ども時代のことをよく思い出して欲しいものです。もっと歴史に対して興味を持っていただきたいものですね。(そう言うとまた怒られてしまいそうですが)

資産運用と所得の考え方

さて、ここからは、もう一つのテーマである資産運用について考えていきたいと思います。

最近「給料を上げる」「賃上げ」というワードがメディアでもよく出てきますが、筆者個人的には「会社からの給与」という狭い範囲での所得アップではなく、「自身の資産運用」まで含めた所得を上げていく、という発想が今日的でないかと思い始めています。
理由は、「世界情勢がこの先どうなるか、何が起こるのかが昔以上に予測しにくい状況にあるから」です。

まず、収入というものの捉え方と賃上げの実情について考えてみましょう。
最近「世帯収入」という言葉がさかんに使われています。世帯収入とは、主に夫婦共働きでの収入を合算させたものを指します。ひと昔前までは、収入といえばご主人(多くは夫)の年収のことを指していたような気がしますが、今はそうではありません。これは情勢や物価、価値観、生活水準等の変化により、共働きの家庭が増えたことが一番の理由と考えられますが、それに合わせて収入というものの世間的な捉え方も変化しつつあることがわかります。
「共働き」というと、充分な収入を得るために“やらざるを得ないこと”というイメージが先行しますが、昔の日本に比べ男女共同参画が進んできたという背景も忘れてはなりません。(とはいえ昨今の物価高のダメージは大きいですし、先進国の中でも日本の貧困化は深刻なものですが)

それに対し賃上げ、つまり給料を上げるということについて考えてみましょう。できれば“経営側の視点”に立って考えてみます。想像力のある方なら、例え巨大企業であっても賃上げには限界があるということは容易に想像がつくのではないでしょうか。何故なら企業が全社員に対し等しく賃上げをするには、間違いなく今以上に膨大な利益を生み出さなければならないからです。国を挙げた賃上げムードが景気促進につながるといっても、現実問題、企業はそれを賄うだけの利益を生まなければなりません。そして一度賃金を上げたら、企業はそれを維持しなくてはなりません。維持できなくなった場合は、当然リストラや減給といった措置が取られます。そのため、「従来の日本の雇用制度」においては、大胆な賃上げというものは実のところハードルの高いチャレンジと言えます。

ではこの「従来の日本の雇用制度」とは何なのかを考えてみます。

「従来の日本の雇用制度」とは

まず、日本と海外の雇用制度の違いについて解説します。

例えば、欧米。特にアメリカの雇用慣行は、業績や景気により給与アップがされやすい傾向がありあります。しかし、日本ほど堅実に雇用が守られるスタイルにはなっていません。ゆえに雇用が流動化し、それが経済の活性化につながるという側面もありますが、勤め先を変えるということが多い分個人の収入が上下する可能性も高くなり、安定的とは言えません。まさに「自由の国」といったイメージです。
対して日本の雇用慣行は、仮に「賃上げ率が低い」もしくは「賃上げできない」といった場合でも「雇用は守る」というスタイルです。こちらは雇用の流動性が低い分安定的で、その会社で長くキャリアを積み、ライフプランを練りやすいという利点があります。

近年日本もアメリカ型の雇用慣行へ変化している傾向がありますが、日本の国民性ゆえか、基本的な労使関係は、まだまだ日本型が中心だと言えます。そして、「収入と安定」は両方を立てるということが出来ないのが実情です。もし今よりも日本社会全体に大胆な賃上げを望むのであれば、日本の労働者も従来の雇用慣行から変化をしていかなくてはならないのかもしれません。

ひとまず、上記の雇用慣行に対する大雑把なイメージとして覚えておきたいのは以下の通りです。

  • 欧米型→「好調なら水準の高い生活ができるが、雇用や職種、景気に大きく左右されるため、資産形成の計画が立てにくい」
  • 日本型→「賃上げをしづらい特性があるが、景気動向による雇用への不安が少ないため資産形成の計画は立てやすい」

そしてこれからの日本においては、このどちらが良い悪いという議論よりも、地域性と合わせたハイブリッドな活用が重要だと思います。実際、東京のような人口も選択肢も多い都会については、雇用の流動性が高くアメリカ型雇用制度に近い環境になりつつあると言えます。一方、地方は都会に比べて人口も選択肢も少ない分、人材の流動性が低いため、安定した雇用が必要と言えます。ゆえに日本型の雇用制度が定着しています。

昨今の日本人の価値観は、SNSを始め様々なメディアによって悪い意味で均されてしまっている、もしくは高水準化している傾向があるように思えます。日本全体の経済成長を促すにあたっては、地域ごとで尺度や価値観の違いが発生することを考慮することが必要で、賃上げ方針や雇用制度については臨機応変な調整・施策が求められるのではないでしょうか。
新卒の学生の皆さんが就職する際の判断基準の一つとして、このあたりもポイントとして押さえておくとよいでしょう。

このような背景に加え、特に昨今は予測をしづらい世界情勢である以上、結論として、賃上げが「ある/ない」に関わらず、「賃金+資産運用」を収入として考えることが、この先必要なことだと考えます。首都圏などの大胆な賃上げが出来る企業・地域では、雇用や給与額が景気動向に大きく左右されるリスクを孕んでいますし、地方の安定した雇用下でも、いわゆる「地方の賃金」では国の提言するような資産額には到底届かないことも考えられます。

そういった賃上げと安定雇用はトレードオフの関係性であるということ、景気動向というものは個人単位でコントロールできるものではないという状況に対応できるようにするために、早いうちからの資産運用をおすすめしたいと思います。もちろん資産運用においても好調不調はありますが、投資先の選定や投資額設定など、ある程度は自分でコントロールすることができます。

そうした資産運用を早いうちから実践し長期的に運用することが、将来的に安心できる要素(セーフティネット)となるのではないでしょうか。筆者は、長野県で多くの経営者の方々とお話をする機会がありました。そこで感じたことは、皆さん「雇用を守る」ということを真剣に考え、注力されている方が多かったということです。

リーマンショックの時の自動車関連の製造業や令和元年台風被災をした時の東北信地域の経営者の皆さんなど、都会の会社(特に外資系など)であればリストラをしてもおかしくない状況になっても、リストラや廃業を踏みとどまった経営者の皆さんは数多くいらっしゃいます。マスメディアが伝える「日本中、賃上げは出来て当たり前」というムードにあまり踊らされず、現実的な目線で様々な角度から社会を見ることが大切です。

もちろん中には、某自動車修理会社のような、“とんでもない経営者”がいたりすることもありますので、個々が企業の本質を見る目を養っていくことが必要です。情報の伝達速度が加速する現代において、企業の体質は常にフラットな世間の価値観にさらされているのです。雇用においても、雇用者が人材を選考する中で、選ばれる立場でもあることも改めて自覚し、研鑽が必要な時代になってきたとも言えるのではないでしょうか。


そうこうしているうちに、はや年末になってしまいました。
大谷翔平選手がドジャースに移籍するというビッグニュースも飛び込んできました。

10年総額で7億ドル(日本円に換算して1,015億円)と桁外れな昇給額。さらに驚いたことは、そのうちの97%を後払いで良いということ。それでも1年あたりの年俸は2億9千万円とか。あまりにも凄すぎてピンときませんが、一度くらい「お給料は後払いでいいですよ!」と言ってみたいものです。憧れるのはいけませんが(笑)

こうして様々な情報が入り乱れる昨今ですが、お金だけでなく、自分にとって何が「価値あるもの」なのか、それはソーシャルメディアではなく、自分自身が決めることなのではないでしょうか。

常によく考えて生活していきたいものですね。
では、皆さん、良いお年をお迎えください。